SPACがなぜ今注目されるのか
- Yas Kohaya
- Mar 1, 2021
- 6 min read
Updated: Mar 27, 2021
昨今、スタートアップのSPAC(特別買収目的会社)による株式上場が盛んだ。Joby AviationもLinkedIn創業者であるReid Hoffmanが設立したReinvent Technology Partnersとの合併をアナウンスした。SPACは「空の器」とも呼ばれ、リスキーな上場手段として批判的に報道されることが多いが、客観的にその利点を分析する記事は少ないなため、ここにてビル・ガーリー氏による「 2020年の新規株式公開 SPACという第3の選択肢」を抜粋・翻訳して紹介する。
(注:このブログ記事は一般的なSPACへの理解を深めるためのものでありJoby AviationのSPACを正当化するものではありません)
SPAC (Special Purpose Acquisition Companies)がなぜ今注目されているのか。過去には企業が株式公開するために一種の裏口上場として使われていたので評判はよくなかったが、2020年になってシリコンバレーの企業では、効率的かつ合法的な方法で株式公開をするための第3の選択肢としてSPACが浮上してきた。ここにて公開会社となるための3つの選択肢とそれぞれの課題について触れていく。
選択肢1:仕組みが破綻したIPO
従来型の株式上場(IPO)は破綻していると言える。シリコンバレーの創業者、社員、投資家から年間で数十億ドルも損を強いられており、この損失額は年々悪化してきている。

ご覧のように公募価格が低く設定される割合が高くなってきており2020年に上場した平均的企業の公募価格と初値は31%もの乖離がある。この31%に7%のIPO手数料を含めると38%の資本コストに相当する。なぜ公募価格と初値の乖離が起こっているのか、そしてなぜ年々悪化傾向にあるのか。
まず、従来型のIPOプロセスには標準的な7つステップがある。
上場対象会社による引受証券会社の選択(ベイクオフ)
S-1準備
ロードショー
アンダーライター(引受会社)による公募価格
アンダーライターが価格を意図的に低く設定(つまりアンダープライス)した上で株を実際に誰が取得するのかを決定
翌朝のNYSEまたはNASDAQの取引所での最終的な市場価格の決定
株式は公開市場での取引開始
従来型の IPO プロセスには2つの致命的な欠陥が存在する。他の金融商品は需要と供給のバランスによって価格が決まるのに従来型のIPOプロセスではこの方法が取られない、ということと、一部の優良投資銀行の顧客だけにIPOが配分され一般投資家にはその権利がない、ということだ。
この欠陥が存在する背景には投資銀行がマーケティングや株の分配にどれだけ力を入れているかに関係してくる。20年前の投資銀行には、現在の10倍規模の営業がいてIPOの際には委託された営業幹部が熱心に営業して取引を成功させ取引ごとに手数料をもらっていた。さらに、複数の銀行が取引にかかわり早い者勝ち競争だったのだ。IPOの株式を多く獲得できれば銀行がIPOで稼ぐことができるという経済的な効果もあった。
現代のIPOでは、通常、銀行から経営者に対してロードショーには2つの目的があると伝えると言われている。
ロードショーの個別ミーティングをする際に97%の投資家が「買注文を入れる」ことが重要で、投資家の97%が購入意欲を示さなくてはいけない
最適な目標は、買い注文が30倍の超過になること。つまり、注文の97%を無視してわずか3%の買い手に渡るよう計画を立てているということ
購入を検討した人の97%が実際に購入の申し込みをして、需要が30倍以上になるような価格水準にすることなど実際は可能なのかと冷静に考えると、このようなアンダープライス行為が如何に馬鹿げているかは明白だ。
アンダープライスから恩恵を受けるのは当然ながら配分決めによって株式を手にできた人たちである。IPOでは、引受会社が上場する会社と株式を購入する株主の両方の代理人となる。IPOは世の中で唯一取引の双方の代理人を務めることができる高額な取引と言える。このような「デュアルエージェント」は通常であれば利益相反となりかねないが、機関投資家においては複数の投資銀行との取引が多いため、一企業と投資銀行とが持つ関係よりもつながりは強く利益相反が現実のものとなり、低価格の IPO 株が投資銀行の顧客に配分されているのだ。
選択肢2:直接上場(ダイレクトリスティング)
直接上場のプロセスははるかにシンプルだ。市場原理により適正価格が決まり株式の分配がされ、IPOのように複雑で巧妙な方法ではなく、単に需要と供給のバランスによって価格が決まる基本的な方法だ。
直接上場では、需要と供給の交差点で株価設定ができる市場原理手法を採用し、また一般的なオンライン証券会社の口座を所有している人なら誰でも参加可能という点において、IPOプロセスの欠陥を回避することができる。そして従来型のIPOのように意図的に低く設定された株式を投資銀行の顧客に分配する誤ったステップを踏むこともない。直接上場では、日々の株式取引と同じ方法が取られており、従来型のIPOの翌朝に行われる取引とまったく同じで、利益相反や偏った分配先の選択など、公募価格のアンダープライスの原因となるステップを取り除いただけの賢い方法なのだ。
但し、現在の規制では直接上場による株式公開では同時に資本調達はできない。そのため、差し迫った資金調達のニーズがあるスタートアップであれば直接上場は適していない。だがニューヨーク証券取引所から証券取引委員会に対して直接上場でも資金調達ができるようにする提案を行っていると噂されており、そうなればこの上場手段を選択するスタートアップも増えてくるかもしれない。
選択肢3:SPACとの合併
公開市場に参入するための第3の方法としてのSPACとの合併は、非常に柔軟な方法で、本来の競争原理が存在する。SPACの場合、価格だけでなく、スポンサーシェアを何%にすべきかや、スポンサーワラントのカバレッジなどについても積極的に交渉することができる。取引が成立しなかった場合、スポンサーが当初に約束した資本は失うことになるため、SPACの期限(一般的には2年)が近づくとスポンサーは条件を譲歩せざるを得ない。当然ながらSPACスポンサー同士の競争があるから、スポンサーの株分配率、ワラントカバレッジ、またはその両方の交渉に応じることになり、スタートアップは有利な立場になる。但し、SPACはプロセスの最後まで到達できないというリスクを伴う。例えばスポンサーと価格合意しても既存の株主に承認されなかったり、償還条件が多すぎたりというリスクだ。
前例踏襲を重んじる一部の人は、SPACによる株式公開は会社の評判に悪影響を及ぼすと警告する人も少なくない。だが株式市場の過去の実績を読み返すと、どのような方法で公開されたに関係なく、市場は将来の期待に対して株式が取引されるものだ。
公開市場に参入する上でSPACを選ぶメリットを整理すると:
組織的なアンダープライスが行われるIPOよりも資本コストがはるかに低い
直接上場と比較しても一次資本市場から資金調達でき有利
自社側に決定権が残ること。会社の価値や価格をスポンサー(特別買収目的会社)のみと直接交渉することができる
上場までに6~7ヶ月の期間を要するIPOや直接上場に比べてSPACは最短2ヶ月という速さで上場が可能
結論として、従来のIPOと比較してSPACは資本コストが低く抑えることができる公開市場への合法的な近道と考えられる。また直接上場とは異なりSPACでは新たな資金調達も可能である。つまりSPACは明らかに低リスクで公開市場できる最速の近道であり、それが今注目されている理由なのだ。
【SPACの基本情報】
· Bloomberg: “Here’s How SPACs Work and Why They’re So Popular(SPACの仕組みと人気の理由)“
TechCrunch: “Almost everything you need to know about SPACs(SPACについて知っておくべきこと)“
Reuters: ”Wall Street holds the cards as Main Street chases blank-check deal frenzy(白紙小切手取引を投資家が狂乱に追う中でウォール街が待ったをかける)“
Dan Primack氏によるSPACの風向き変化: “SPACs undergo fast evolution as they outpace traditional IPOs(従来型IPOを上回る速度でSPACが進化)“
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