シリコンバレー人材の活用(その3:本社とのコミュニケーション)
- Yas Kohaya
- Feb 1, 2022
- 6 min read
Updated: Feb 27, 2022
日本企業の現地法人がローカル人材を活用する上で一番悩むのが本社とのコミュニケーションについてだろう。これは何もシリコンバレーに限った課題ではないが、人材流動の高いシリコンバレー或いはテック業界では特に頭を抱える問題である。以前のブログでも語ったように、シリコンバレーの平均転職サイクルは2、3年程度とも言われる。転職の理由は様々であろうが、優秀な人材ほど常に新たな機会のオファーが舞い込んでくる人材争奪戦の状況にある。そんな人材をもし採用できたとしても日系企業にありがちな無駄な社内調整や本社とのコミュニケーションの難しさに耐えられずすぐに辞めてしまうのも想像に難くないだろう。ではどういった対策を取るべきか。
本社とのコミュニケーションの解決策は結論から言うと、現地人材には強要せず日本人が間に入る以外に方法はない。ただ、私のポイントは単に間に入って本社の都合を押し通すのではなくて現地スタッフに徹底的に寄り添うということだ。
駐在経験者であれば誰でも周知の事実とは思うが、ローカルスタッフと本社のコミュニケーションはどう頑張っても噛み合わないことが多い。彼らが持つ日本人とのコミュニケーションの問題・不満は下記に集約される。
【ココガヘンダヨニホンジン!】
・利害関係者(部署)が多すぎて誰が意思決定者なのかわからない
・日本企業特有の「根回し」の重要性は理解しているものの、誰にどのような順序で根回ししたらよいのかわからないし、根回しをしたところで決まったのか決まってないのかがはっきりしない
・会議に意思決定権を持っている人が出席していないので返事が返ってくるのが遅すぎる
・英語力の不足
・会議中に何も異論が出なかったので問題無しと思っていたら後で問題が噴出する。なぜその場で問題を発言しなかったのか?
コミュニケーションギャップを埋める目的として、日本人が「コーディネーター」として駐在し本社と現地との橋渡しをすることが多い。しかし駐在員は現地スタッフに寄り添っているつもりでも実際は本社しか見ておらず、揉め事や調整事が発生すると日本人同士で物事を片付けてしまい現地スタッフを巻き込まないというケースがよくある。本社から派遣された日本人スタッフは阿吽の呼吸で本社とコミュニケーショオンが取れるためその方が楽なのは当然だが、それでは現地スタッフは納得いかないし不満が溜まるばかりだ。
もちろん日本人からすると、言うことがコロコロと変わる、説明がいつも足りない、英語が理解できないなど、現地スタッフへの不満は多々あるだろう。シリコンバレー人材は能力が高い一方で個人プレー重視なので、相手を配慮した根回しやチームワークといった組織連携意識が苦手という傾向はある(もちろんあくまでも一般論であり、組織プレーに長けた人材も多くいるが)。一方で、スタートアップはスピードが命なので、動きが早くドンドン進む分、説明している余裕がないとも言える。そんな異文化と交流する上で、日本人はどうしても遠慮して本音を言わなかったり会議の場で質問することを躊躇してしまう。それがすれ違いの原因になっている。
昨今では「海外事業体の自立化」という名目で現地スタッフに権限を与え意思決定を任せる傾向が強まっている。Toyota Research InstituteやToyota AI Venturesはその究極の形であり、敢えてトヨタらしくない人材を惹きつけることが目的ではあった。だが、それは諸刃の剣でもあり、本社の文化や言語を理解しない人材に任せれば任せるほど意思疎通が悪化しすれ違いになる可能性が高まる。それを避けるためにはお互いの理解を深めるしかないが、残念ながらギャップが完全を埋まることは無理に近い。それは日本企業独特の意思決定や硬直的な仕事のやり方が海外からしてみると全く相容れないビジネス習慣だからだ。だから現地スタッフから信頼されコミュニケーション力にも長けた日本人がリエゾンとなって本社と現地スタッフの双方のニーズや要望を汲み取って調整役になることは今後も欠かせない。
では、実際に駐在員が現地スタッフに「寄り添う」とはどういうことか?それは単に間に入るのではなくて、現地側に立って行動するということだ。それは言うが易しで実際は難しい。本社から派遣されている以上、現地の意見を尊重したくても本社を中心に考えてしまい、更には本人の人事権を本社の所属元部署が握っているためどうしても守りの姿勢になってしまうからだ。本人は現地のために動いているつもりでも現地スタッフから「お前は一体どっちを向いて仕事をしているのか?」と不信に思われてしまったら元も子もない。本社が正論を言っているように思えても現地スタッフに押し付けることをグッと堪え、本社と戦う覚悟で現地スタッフに寄り添う。それだけに本社とのコミュニケーションを困難を極める。
TRIのChief Liaison Officerとして橋渡し役に徹した私は、調整どころか「板挟み」になることが宿命でもあった。現地スタッフの理屈が無謀と分かっていても本社に無理に押し通そうとした結果、どれほど痛い目に遭ったことか。だが(自分で言うのもおこがましいが)双方の文化や言語がわかる人間が現地スタッフを第一に考え寄り添わない限りはTRIやTAIVは成功しなかっただろうし、それぐらいの覚悟と勇気を持たなければ本社の意識を変えることなど不可能だと今でも信じている。
日本人は親切丁寧で利害関係者を巻き込みながら物事を推進する組織プレーに強い。つまり日本人の強みを活かせば、シリコンバレーの頭脳と良いシナジーを生み出すことができる。だからシリコンバレーという競争の激しい環境でも日本人が活躍できる場は多くあると私は感じている。

また「寄り添う」という考え方はスタートアップとの協業でも当てはまる。スタートアップからしてみれば日本の大企業などブラックホールを覗くようなもので全く不可解な世界としか捉えていない。だから過去のブログ「スタートアップ協業の仕掛け方」でも提唱したように、本社とスタートアップ双方の言語が理解できる人間が寄り添うことができれば大きな成果を出せる可能性は十分にある。
【スタートアップ協業の仕掛け人の心構え】
両サイドの社風や仕組みを熟知した仕掛け人がそっとクラッチミートさせるようにお互いのニーズを上手く汲み取り、泥臭い根回しを進んで行い、ときには板挟み役に徹して摺り合わせていく。語学もバイリンガルなだけでは不十分で、双方の社風を熟知した上で、それぞれの会社で使われる言語、つまり独特の言い回しや仕事の仕組みを、相手が解る形に表現を置き換えて丁寧に伝え徐々に相互理解を深めていく。
繰り返すが、コミュニケーション問題はシリコンバレー特有のものではなく、日本企業のグローバル化する上での永遠の課題だ。但し、特にシリコンバレーで留意するべきことは、優秀な人材ほど日本企業独特の習慣に付き合っている暇などなく、満足いかなければすぐに辞めてしまうのでより一層の配慮とサポートが必要だということだ。シリコンバレーとは、高度スキルを持った人材が自分が活躍できる場を常に探し、もし職場に満足していたとしてもいつヘッドハントされるかわからない厳しい世界だ。だからこそ現地人材の才能を最大限に引き出すためにも日本人が常に現地側に寄り添って、本社との面倒なやりとりは引き受けるしかないのだ。
「シリコンバレー人材活用」シリーズの最終回は、採用した現地スタッフの転職について考えたい。
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