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シリコンバレー人材の活用( その4:転職は歓迎すべき!)

  • Yas Kohaya
  • Mar 1, 2022
  • 4 min read

シリコンバレー人材活用法の最後は転職との付き合い方について。現地で拠点を構える上で覚悟すべきことは人材流動性であり、離職・転職は避けて通れない、ということ。この課題に対しても私の答えは単純明快で、転職を歓迎することである。


TRIで日本人代表を勤めていたとき、訪問してきた日本企業の方々から「最先端技術開発を現地採用人材に任せてもし辞めたら企業機密を盗まれるのが怖くないですか?」とよく聞かれた。実際のところ、産業スパイだとか退職した社員が機密情報を盗み出すといった事件が多発しており、その不安は無視できない。


情報漏洩だけではなく、人材育成という観点からも転職のインパクトは小さくない。グローバルスタンダードの人事制度改革を推進する本社人事部門にとっても痛手であろうし、現地で採用活動に尽力する日本人スタッフにとっても「せっかく本社人事を無理やり説得して報酬も現地スタンダードに上げたのに」とやるせない気持ちになるのは重々理解できる。


特に日本の事情と大きく異なるのが、突然辞職を提示し引継ぎもせずにいつの間にかいなくなってしまうというのが当たり前、ということ。辞めていく本人は業務が完全ストップしてしまおうがお構いなしで、周囲に迷惑を掛けるなどの意識は全くない。日本人からしてみれば非常識な行為であり、困惑するのも無理ないが、残念ながらそれが(少なくとも米国ビジネス社会の)常識である。


だが、様々な課題を抱えながらも、転職は当たり前のこととして前向きに捉える以外に方法はない。シリコンバレーは常に新たなチャレンジを求める野心的な人材が多い。彼らは大企業でキャリアをスタートしたとしても、複数のスタートアップへの転職を繰り返し、蓄積した経験を活かしていつかは自分で起業したいという野望を持っている。彼らにとって日本企業で働くことは経験を積む過程の一つとしてしか捉えてなく、いずれは自立して成功するのだという野望を持っている。


だから重要なのは、辞職後もその本人との関係を維持し、将来のネットワーク機会を重視すべきということだ。もし辞めていったとしてもどこかでまた巡り合い自身が起業したスタートアップと協業、或いは投資につながることも稀ではないのだ。実際にTRIでも辞めていったエンジニアが後に起業し、TAIVが投資、そしてその後にトヨタ本社との協業に発展した好事例がいくつも実在する。例えば自動運転シャトルビジネスを展開するMay Mobility社は、TRIの元自動運転開発責任者が起業したスタートアップで、今ではトヨタ本社の支援を受けて日本にまで進出している。


転職を肯定すべき理由は「守り」の意味もある。職場の口コミ評判だ。アメリカではGlassdoorなどといった職場の実態を暴露するネットサービスが人気だが、シリコンバレーでは更に個人ネットワークを通じてクチコミが瞬く間に拡散される傾向にある。大抵の場合、喉から手が出るほど欲しくなるような優秀な人材は人気IT企業から複数のオファーを天秤にかけて転職先を決める。そんな状況の中、「◯◯社の職場は最悪だ」など評判が広まってしまうと採用に悪影響を与えるのは必至だ。


もちろん、情報漏洩への万全な対策は欠かせない。私はIT専門家ではないので詳細を語ることはできないが、シリコンバレーで働いて感じる日本との大きな違いは、”Trust & Verify”という意識が浸透しているということだ。つまり、日本のように(多くの場合無意味な)ガチガチのルールで社員の行動を縛るのではなく、基本的な法令遵守体制は敷いた上で社員の倫理性を信じて(Trust)日々の行動には自由度を担保する。その代わりにIT技術を駆使して違反をチェック(Verify)できる体制を構築しておく。もちろん、違反が判明したら解雇などの厳しい処罰が待ち受けているのだが、違反を未然防止する日本のネガティブチェック的な管理方針に対して、成果を重視して行動責任を社員に負わせる、という考えは大きな違いである。私は後者の方が会社と社員の間で信頼関係が高まり、結果的に仕事の満足度だけでなくイノベーション創出にも直結するのではないかと感じている。


「イノベーションは辺境から生まれる」とよく言われるが、日系企業はその機会を掴みきれていないのが実態だ。スタートアップの生態系に近づくためには情報収集や協業といった活動の領域を超え、イノベーションを繁殖させるエコシステムを自ら作り出すという逆転の発想が必要だ、それはつまり自社からイノベーターを育成し輩出することに他ならない。優秀人材の離職は短期的には痛手であっても、長期に見れば自社に勤めたことがのちにイノベーションを起こす原動力となり自社の変革のきっかけになると信じるべきである。現地に拠点を置いて「シリコンバレー・インサイダー」になる真の理由はそこにあるのだ。


だから、優秀な現地社員が辞めると言ったら、「これまで我が社で活躍してくれてありがとう!またどこかで協業できることを楽しみにしているよ!」と盛大に送り出すべきだ。

 
 
 

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