スタートアップへの転職を決意した理由 (2020/5)
- Yas Kohaya
- May 1, 2020
- 5 min read
私はトヨタ自動車に在籍中、様々な経験を積ませてもらった。入社後は生産技術エンジニアとしてキャリアをスタートしたが、8年の経験を積んだ後、アメリカのビジネススクールに社費留学させてもらい、帰国後は事務屋に「社内転職」し、商品企画部門においてレクサスやEV、プラグインHV、燃料電池車などの商品企画に携わった。転機が訪れたのは2010年頃、トヨタがテスラに出資したときだ。自分から名乗り出て協業の窓口を担当することになり、シリコンバレーに毎月出張する生活が始まった。結果的にテスラとの協業は解消したものの、共同開発車両を世の中に出し、その過程で私はシリコンバレーの世界に刺激を受けることになった。2014年にシリコンバレーに家族と共に赴任し、ベンチャー企業の発掘・連携業務を推進するオフィスを立ち上げた。その後Toyota Research Institute(TRI)の立上げを支援し、同組織の日本人代表となった。更にTRIの子会社としてToyota AI Ventures(TAIV)を立上げベンチャー投資の体制も構築した。こうやって22年間を振り返ると、トヨタという大企業にいながらも、生産技術から商品企画、事業戦略、スタートアップ投資、自動運転・ロボティクス・AIといったユニークな経験を積ませてもらえた。私の専門が何かと聞かれると明確な答えはないが、自動車業界とハイテク、日本とシリコンバレー、大企業とベンチャー企業が交差する最先端の領域で奮闘してきた気がする。
そんな私が安定を捨てて22年間も勤めてきたトヨタを辞めた理由はなぜか?
まず、Jobyからの誘いがある前から転職する決心はついていた。トヨタでの人生に不満を持っていたわけではないが、不確実性が高まり先が読めなくなったこのご時世、大企業と言えども今後ずっと安定が約束されるとは限らない。これまでは幸いにもやりがいのある仕事を常に経験させてもらってきたが、それでも大企業の中では私の存在は歯車の一つでしかなく、様々な社内のしがらみや硬直的な組織・仕組みの中でずっとモチベーション高くやりがいのある仕事を続けれるか、という不安は日に日に高まっていた。そして何よりも社内政治に自分の時間と神経をすり減らしていることにもう辟易していた。そうであれば大企業の安住を捨てて、自分の人生をコントロールし、定年退職のない人生を送りたい、そう思うようになっていた。
とは言え、明確な計画があるわけではなかった。ベンチャー企業への憧れはあったし、そのためにTAIVを企画して立ち上げたのだったが、だからといってベンチャーへの転職機会がゴロゴロ転がっているわけでもない。帰国してTRIやTAIVの経験を活かし、どこかでイノベーション創出に貢献したいという気持ちもあった。
だが、結局ベンチャー企業に転職を決心したのは、端的に述べると、私の経験を必要とするポジションがそこにあったからだ。しかも運良く。
トヨタとJobyとの関係は2017年までさかのぼる。私が立上げに携わったトヨタ初のCVC、TAIVがJobyを発掘し投資を行った際、私もその投資判断の意思決定に関与した。自動車メーカーであるトヨタが「空飛ぶタクシー」に本当に興味を示すのかという懐疑的な意見もあったが、蓋を開けてみると私の予想通りトヨタ本社は高い関心を示し、投資直後から協業の議論につながった。空飛ぶタクシーを世界中に広めたいJobyとしてはトヨタ生産方式は喉から手が出るほど欲しているノウハウ。Jobyもトヨタに急接近し、トヨタもそれに応えるように本社のエンジニアを派遣し、具体的な技術協業が始まりつつあった。ところが、実際のところは大企業とベンチャーは油と水のような存在。カルチャーや言語の壁はもちろんのこと、仕事のスピードや仕組みまで全く違う。やがて日本からの大勢の出張者の対応をしているだけでも開発の妨げになり始め、「トヨタとの協業をマネージする人材を雇わなければ」ということになった。そこに私に白羽の矢が立ったわけだ。
昨今、日本でも大企業とベンチャー企業との協業が盛んになってきているが、実際のところ成功事例は少ない。それはカルチャー、スピード、ゴール、Priority、Incentive、業務の仕組み・管理など、全く異なり基本的にかみ合わないからだ。私はこの10年、その油と水のような異なるカルチャーをいかに掛け合わせてイノベーションが創出できるかに取り組んできた。それは2010年のテスラモーターとの協業に始まり、その後、TRIやTAIVの設立でも実践してきた。そして今回のJobyでのポジションはまさにその10年間の知見をフルに活用できるチャンスだった。トヨタの仕組みや意思決定を熟知し、それながらスタートアップのニーズやスピードも理解している。日英バイリンガルだけでなく、日本とアメリカの文化を「バイカルチャー」として深く理解している。更にシリコンバレーのスタートアップとの協業の経験が豊富で、R&D拠点の立ち上げやベンチャー投資の知識も有している。自分で言うのもおこがましいが、日系企業とシリコンバレーのベンチャー企業をつなぎ、両方のマインドセットと仕事のやり方を両立させる役割として私以上に相応しい人材はいないのではないか、という自信があった。だからJobyへの転職を決心したのだ。
大企業のペースに慣れてしまって、本当にスタートアップのスピードについていけるか、一抹の不安はある。だが、不安よりも、私の知識・経験を必要としているポジションがあるのだからそのチャンスを掴むべき、という意識の方が強かった。
「定年退職のない、自分の人生をコントロールできるキャリアを築きたい」という思いが、Jobyでのチャンスにつながった。さあ、これを最大限に活かさなければ。
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