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スタートアップ協業の仕掛け方

  • Yas Kohaya
  • May 1, 2021
  • 6 min read

Updated: May 3, 2021

シリコンバレーの日系VC業界の重鎮であるNSVウルフ・キャピタルの校條浩氏が執筆するダイアモンド・オンライン「シリコンバレー流儀」連載で私を「スタートアップ連携の仕掛け人」の事例として取り上げて頂いた。その記事の中で校條氏は、イノベーションを推進し性質が異なる事業同士が化学反応を起こすためには“触媒“が必要であり、そのためには外側から内側を見る感性を持った人材が必要、と提唱している。


スタートアップ連携を成功させるためには、誰が仕掛けるのかということも重要だが、それ以上に欠かせないのは、「どのタイミングで」「何のために」「どうやって」仕掛けるかだ。


まず、スタートアップの成長フェーズを正しく理解する必要がある。あくまでも一般論ではあるが、大まかにはアーリー、ミドル、レートというフェーズに分けられる:


・アーリー・ステージ:創業間もなく事業転換(ピボット)も十分にあり得る不安定な状況

・ミドル・ステージ:商品化を達成し顧客獲得も売上も軌道に乗り始める段階

・レート・ステージ:事業拡大、海外展開する段階


一方で、協業を模索する大企業側は自社の目的やニーズ次第で仕掛ける相手や仕掛け方が異なってくる。


例えば、協業目的が既存事業の補完や事業拡大といった短期的目的であれば、既に商品化済みで事業としても安定フェーズに入っているレート・ステージのスタートアップにアプローチするのが無難であろう。そういった企業は既に海外展開を視野に入れているケースが多く、日本市場参入の連携も比較的に容易に話が進むかもしれない。但し、失敗リスクは相対的に低い一方で日本市場は参入障壁が高く業界によっては他国と比べて儲け難いというイメージがあり、提携交渉はそう簡単には行かないかもしれない。逆に該当スタートアップが日本市場を真剣に考えているとしたら他企業が既に手を付けていて手遅れという場合もあるだろう。また提携の切り札として投資を検討しようにも優良企業ほどバリュエーションが高騰していて投資額が大きくならざるを得ない。協業の本気度を示すためには投資したいが額が高すぎる、だが投資をしないと協業の話が進まない、というジレンマに陥る可能性は否定できない。


もし協業のゴールが新規事業の提携や実証実験・共同開発などといった中期的な目標であれば、ミドル・ステージのスタートアップと連携する方法があるだろう。商品化に成功し事業拡大のためにパートナー探しをしているスタートアップに巡り合えるチャンスは十分にある。但し、この時点でもスタートアップ側は「如何に自社の売上アップに貢献できるか」という視点で厳しく協業相手を見極めるため、目的やゴールイメージのベクトルを合わせるのはそう簡単ではなく同床異夢になりがちだ。トヨタとテスラの協業も始めはうまくスタートしたものの、テスラ側の事業が軌道に乗り始めトヨタの存在が次第に足かせとなったため提携を解消する結末となった。協業を仕掛ける側の知名度がどれだけ高くてもスタートアップ側の売上げに貢献できなければ容赦無く切り捨てられてしまうことを覚悟しなければならない。


過去のブログでも何度も問題提起してきたが、日系企業はスピードや意思決定の遅さや、スタートアップのニーズを無視して上から目線でマイクロマネージしようとする、という悪イメージが定着しており劣勢な立場にある。それに協業どころか英語力不足からまともな会話すら成立しないお粗末なケースも未だに散見される。言葉や文化の壁を乗り越えお互いの理解を深めるためには時間がかかる。またどんなに一生懸命に関係構築に奔走しても、スタートアップ側の突然の方向転換に不意打ちを食らう可能性も十分にあり得る。スタートアップ業界では生き残るためにはなり振り構わず事業転換することなど日常茶飯事で、覚悟しておかなければそれに振り回される羽目になる。


では日本の大企業がスタートアップ協業を成功させるためにはどうすればいいのか?私は長期目線でアーリーステージのスタートアップを早くから発掘し、時間をかけて信頼関係を構築して「無くてはならない存在」になるしかないと考えている。言葉の壁を乗り越えたとしても、そもそも企業規模や仕組みが異なると如何にスピードを合わせようとしても意思疎通などできるはずがないし、スタートアップ側もギリギリのリソーセスで事業を軌道に乗せようとしているのだから協業に専念できるような余裕などあるはずがない。そんな状態で拙速に協業を仕掛けたところでうまくいかないことは想像に難くないだろう。だが、スタートアップの成長を暖かく見守り、その時の状況やニーズに合わせて手厚い支援を惜しみなく提供すれば少しずつ信頼されるようになり、やがて「厄介な相手」から「有難いパートナー」という存在に昇華していくことができる。そしてスタートアップの準備が整った時点で初めて協業を仕掛ける。アーリーステージのスタートアップなど海の物とも山の物ともつかぬリスキー過ぎる存在、という拒絶反応を起こす日系企業は多くいるが、そのリスクを覚悟の上でも果敢に挑戦すればスタートアップとの付き合い方を学びやがて優良企業を発掘できるようになる。逆にその努力を惜しまない限りスタートアップ協業でイノベーションを起こすことなどできない。つまりアーリーステージ・スタートアップとの連携は時間がかかるようで実は成功への近道なのだ。


Toyota AI Venturesでもスタートアップをお客様として大切に扱い、無理に協業を押し付けずにまずはそのスタートアップの成功を第一に考えてきた結果、トヨタ自動車という大企業でも「スタートアップ・フレンドリー」だという評判を少しずつ醸成してきた。Joby Aviationとの協業もその成果と言える。


勿論、校條氏が力説するように仕掛け人の存在も欠かせない。企業間の関係は大小と問わず結局は人と人とのつながりで成立するもの。特にスタートアップ協業の仕掛けとは自動車のクラッチのようなもので、本社側の都合を一方的に押し付けてマイクロマネージしようとしても、(高馬力のエンジンを乱暴にクラッチミートさせるとミッションを壊してしまうのと同様に)スタートアップを殺してしまいかねない。両サイドの社風や仕組みを熟知した仕掛け人がそっとクラッチミートさせるようにお互いのニーズを上手く汲み取り、泥臭い根回しを進んで行い、ときには板挟み役に徹して摺り合わせていく。語学もバイリンガルなだけでは不十分で、双方の社風を熟知した上で、それぞれの会社で使われる言語、つまり独特の言い回しや仕事の仕組みを、相手が解る形に表現を置き換えて丁寧に伝え徐々に相互理解を深めていく。


このように「誰が」「どのタイミングで」「どのように」協業を仕掛けるかで結果も大きく異なってくるのだ。


校條氏は仕掛け人の連載記事をこう締めくくっている。「事業イノベーションは、内側の論理で行儀よく動いて実現できるものではない。内側と外側の両方を経験した仕掛け人の存在が、これからますます重要になってくる。」 日本企業が今後イノベーションを創出して競争力を取り戻すためにより多くの「仕掛け人」が出てきてくれることを期待したい。

 
 
 

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