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何が判ってないかのかが判っていない(2020/7)

  • Yas Kohaya
  • Jul 1, 2020
  • 3 min read

Jobyの経営陣はよく「We don’t know what we don’t know」という表現を使う。直訳をすれば「何が判っていないのかが判っていない」ということだが、それにはもっと深い意味が込められている。シリコンバレーはイノベーションの聖地と広く認識され、確かにユニコーンの輩出数などを見てもそういうイメージはあるが、実際のところは成功よりも失敗の数の方が圧倒的に多い。失敗の理由は様々で、経営陣の未熟さから製品と顧客ニーズのミスマッチなど、TAIVに在籍していたときもベンチャー企業経営が如何に難しいかを目の当たりにしてきた。だが、教訓として共通する点は、予期せぬ状態に如何に臨機応変に、そして迅速に対応し、ときには事業計画自体を全て見直す(Pivot)スピードと決断力があるか、ということだ。

トヨタで学んできたのは、時間をかけて将来動向を緻密に予測し、それに伴う計画を立て、全社一丸となって実行することだ。一度計画を立てたら何がなんでもやり抜く。それは自動車の開発には莫大な開発費と工数がかかるからであり、一旦計画を立てたらそう変更できるものではない。一旦決めたことを変更すると影響を受けるのは社内だけではなく、サプライヤーや販売店など、自動車産業の巨大なピラミッド全てに波及する。だからこそ緻密な予測と計画が重要なのだ。だが、幸いにも自動車市場というものは安定していてそう急激に変化するものではない。商品によっては売れる売れないはあるものの、市場全体で見れば(コロナウィルスなどの一時的な市場ショックは除いて)販売台数は常に見通しが立っている。だから将来の計画も立てやすいし一度立てた計画は実行しやすいのだ。

ところがベンチャー企業というものは新しいマーケットを切り開くのが使命であり、特にアーリーステージの場合は本当に顧客が存在するかもわからない場合が多いし、製品開発が成功する保証もない。仮に製品開発に成功したとしても顧客ニーズの変化や規制が障害になって予想通りに売れるとも限らない。ましてや空飛ぶタクシーサービスなど、今存在しないマーケットがどう展開していくのか、自社だけではどうにもならない場合もある。しかし逆に考えれば例えばライドシェアのようにたった一社のベンチャー企業によって巨大マーケットが突如作り上げてしまう可能性だって秘めている。つまり、ベンチャー企業は「諸行無常=世の中は常に変化する」という前提に立って、変化に機敏に対応しながら商品と市場とのマッチを実現させなければならないのだ。

JobyはeVTOLと呼ばれる電動飛行機を(私が転職する時点で)10年という年月を掛けてゼロから自前開発してきた。10年前に空飛ぶタクシーという市場が勃興するなど誰も予測できなかっただろうし、2020年の今でもどうなるか正確に予言できる人は誰もいない。しかも、飛行機を商品化するためには緻密な開発計画だけでなく、規制への対応や離着陸の実現に向けた自治体との交渉など、実用化に向けて乗り越えるべき壁を数え出したら枚挙にいとまがない。一方で、ソフトウェアやネットサービスとは違い、人の命を預かる超複雑な空飛ぶ乗り物を実用化するためには複数年を掛けた着実な計画・実行が必要であり、「一度立てた計画は着実に実行しなければいけない」という難しさは自動車業界と似ていると言えるかもしれない。それでもJobyの経営陣が”We don’t know what we don’t know”と言い続けるのは、空飛ぶタクシーという市場がどうなるのか誰も予測できないからであり、その不透明な将来に対して可能な限りオプションを残しておかなければまさに会社の存続そのものにつながりかねないからなのだ。トヨタとJobyの間で開発方針や計画の立て方で意見の食い違いがよく発生するが、自動車業界と空飛ぶタクシーではそこが決定的に違う。だからこそ”We don’t know what we don’t know”という言葉に非常に重みがあるのだ。

 
 
 

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